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  • 3.11 あの日から10年…。これからの住宅

    2021-03-11

    3.11 あの日から10年経ちました。

    お亡くなりになった方やご家族に、心からご冥福をお祈り致します。

     

    あの日、私は宮古市に仕事で出張していました。

    昼休みにお世話になっている宮古湾に近いソニーショップさんにお邪魔して当時欲しかったミラーレスカメラSONY NEX-5を試用していました。予算オーバーで買えなかったので、カメラをお店のテーブルに置き、別のコンパクトなカメラを買い、担当していた建築現場に向いました。

    現場を確認してから近くのコンビニで遅い昼食を取ろうとした時、大地震が起こりました。

    3.11東日本大震災です。

    体験した事の無い強く長い地震で不安になり、とりあえず妻に「大丈夫」とだけガラケーからメールしましたが返事はありませんでした。私の居た場所の地盤が固かったせいか、コンビニの棚からも物は落ちていなかったため、とりあえず地震に揺られながら弁当を食べ現場に戻ったのですが、そこで携帯のワンセグを見て驚愕しました。画面に映っているのは、お昼まで居た宮古湾に津波が押し寄せ、沢山のが車は津波に揉まれている映像だったのです。

    道路は落石や津波での状況が不明のため、明るくなるまで車で避難していましたが、ワンセグで情報が流れる度、連絡がつかない家族は大丈夫なのか、恐怖と不安で眠れぬ夜を過ごしました。

    翌日私は、取引先や知り合いの家を転々としながら、宮古から盛岡→北上へと移動し、釜石へと帰ったのは3日後でした。

     

    家族や家は無事でした。

    私の家は耐震性はもとより、断熱気密性能が良かったので、震災から3日目まで無暖房で20℃をキープ。電気が復旧する7日目まで15℃を下回らず、凍える思いをせずに済みました。

     

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    灯りの為に使った石油ランプを付ければそれだけで20℃になるのです。自分で計算し決めた当時ではまだ珍しかったウレタン内外2重張りと樹脂トリプルガラスの断熱仕様でしたが、本当に役立ちました。

    電気が復旧した後は、暖房・給湯・厨房すべて通常に使えたので、1カ月の間は被災した親戚十数名にお風呂を提供しました。

    会社は津波で甚大な被害を受け、仮設事務所に移る事になりました。

     

     

     

     

    震災から7日後、震災直前まで居たソニーショップさんから電話があり、津波の被害に遭われ、商品のほとんどが水没してしまったのですが、私が手に取っていた「あのカメラ」は無事だったので買ってくれないかという事でした。聞けば津波で浸水したお店の中で浮いたテーブルの上で奇跡的に水没せず無事だったというのです。私は不思議な縁を感じ二言返事でカメラを買う事にしました。

     

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    お店でカメラを受け取った帰り、今度は友人の家を建ててくれた工務店さんから電話があり、友人の家が津波を被ったが、浸水せず残っているので写真を撮ってくれないかというのです。

    私は「今カメラを買ったばかりなので…」 とそのまま写真を撮りに行きました。

     

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    友人の家は私が家を建てた経験を基に、断熱気密の仕様の暖冷房換気の設計施工を行い、反省点を活かし日射取得の面積を増やして建てられているのですが、高台に建っているのにも関わらず50㎝以上の津波が押し寄せ、瓦礫が山に積まれている状況でした。写真(右上)でもわかるように、家の基礎より上にクッキリと津波の水位の後が残っています。

    奇跡的にガラスが破れず家には玄関にコップ一杯の水しか侵入しませんでした。

    気密が良かった事と、基礎断熱であった事がポイントだと思います。復旧作業で何十棟ものお家を見ましたが、床断熱の家は、土台の通気パッキンや床点検口から水が入り、床下、床上浸水する事例が非常に多かったです。

    この家は電気が一か月来なかったのですが、無暖房で20℃をキープしました。また、母屋に手押しポンプの井戸と薪のお風呂があり、水にもお風呂にも寒さにも困らないとご家族に感謝されましたが、被害に遭われたご近所の避難所となり、非常に喜ばれたそうです。

    その後、私が撮影した写真は「東北の住まい再生」という岩手県後援の冊子に「命を守ってくれた家」として掲載されました。

     

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    それから一年後、震災直後の原発事故が終息せず、エネルギー情勢の不安を感じていた私に、恩師である長土居氏から「ヨーロッパに視察に行かないか? 向こうは住宅もエネルギー政策も10~20年、進んでいる」と誘われ、会社の長期休暇を取り自費でヨーロッパ視察に参加しました。

    2012年11月、旅の仲間と共にそこで見聞きしたヨーロッパの住宅やエネルギー政策と日本の状況と比較して愕然としました。福島の事故からエネルギー政策を転換したスイスは、原発の廃炉に期限を設け、再生可能エネルギーへの道を進んでいました。太陽光発電と風力発電の割合を3:7の割合で設置し、運用する事や地域熱供給、排水熱ヒートポンプ、住宅や消費エネルギーの基準や規制、その住宅をバックアップするための、数年単位の補助金、金融機関の融資は、断熱性などの評価基準に応じ、30年後でも変わらぬ価格(価値)で評価してくれるなど、日本と比べで(2021年の現在と比べても)あまりにも進んでいました。いいえ、日本が遅れ過ぎているのだと思います。

     

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    行政の建物や集合住宅などの公共事業の多くが見本となるために省エネ改修が進み、玄関には断熱躯体や資料が置かれています。教育の現場では高性能住宅はカリキュラムに取り入れられ、良好な温熱環境の中で体験とともに行われています。

    本当に様々な事を学び、色々な人との縁が出来ました。

    可笑しかったのは、2012年のヨーロッパ視察に行った5人中、4人がSONY NEXシリーズを持って視察していた事です。長土居さんだけLeicaでした(笑)

     

    私は、この視察をきっかけに前職を辞職し、現在の会社を起業しました。

     

    それからもヨーロッパ視察に計5回渡航し、「あのカメラ」で10000枚以上の省エネ住宅や施設の現場をレンズを通して撮影・取材した知識を活かし、地域やご依頼頂いた方々の住宅の省エネ、設備、温熱環境設計に取り組んで来たつもりです。

     

     

    東日本大震災から10年…。

    菅総理が2050年カーボンニュートラルを宣言されましたが、日本の住宅やエネルギー政策は変化の兆しは見えても、今建てられているものの大半は10年前と同様のモノが建てられ、2050年まで残ってしまいます。それでは目標を達成する事は出来ません。

    まずは行政の建物をいち早くカーボンニュートラルを実現する建物に改修を行い、住民にお手本を示して欲しいです。きちんと断熱気密化した良好な温熱環境を体験すれば、多くの人の考え方が変わります。

    そして、早急に住宅の省エネ基準の義務化を行い、金融機関と連携して補助金や融資制度の見直しを図って頂きたいのです。見本は、すでにヨーロッパにあります。

    地元、釜石に新築予定の市役所は、次に津波が来た時には孤立しそうな場所に予定され、恐らく2050年カーボンニュートラルに対応する省エネ対策は出来ていないでしょう。

    被災地に住む、一人の住民として、本当に未来の子供達の為の施設になる事を希望します。

    そして一人でも多くの人がより良い温熱環境に住むことの出来る世の中になるよう願っています。

     

    関連リンク

    私の自宅の断熱仕様などの詳細 釜石の家

    私の友人宅の断熱仕様などの詳細 吉里吉里の家

    ヨーロッパ視察後に建てられたエネルギー自給自足の家 佐戸の家

    ヨーロッパ視察のガイドやをして頂いたスイス在住 滝川薫さんの「滝川薫の未来日記」

     

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